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地獄沢(生瀬乱)

画像:地獄沢(生瀬乱) 

地元の伝承

地元の伝承によると、事の起こりは年貢の取立てにありました。年貢取立ての役人が来たので、いわれるままに完納しました。するとまもなく別の役人が年貢取立てに現れ、年貢の納入を督促しました。既に納めたことを申し立てましたが、聞き入れられませんでした。農民の側でも年貢を二重取りされたのではたまらないと、村役人と相談した結果、後から来た役人がにせ役人であると判断し、後から来た役人を殺してしまいました。ところが、前の取立て役人が偽役人で、後からの取立て役人が本物でありました。
そのため、藩の怒りに触れ、秋の取り入れが終わった10月10日(陰暦)の未明、突如として芦沢伊賀守を総大将とする一隊が袋田口、高倉口、小里口の三方から小生瀬村を襲いました。突然の事で驚いた農民達は、あわてふためいて隣の高柴村岡ノ内坪にある小さな沢(浸食谷)に逃げ込みました。この沢は袋状のため逃げ場を失い、一村皆殺しにされてしまったという事件です。

事件の発生年代

生瀬乱が明るみになったのは、江戸時代の後期、事件からおよそ200年を経過した文化年間(1804~1818)です。当時水戸藩の学者であった高倉逸斎は、小生瀬村で起きた「一村皆殺し」の伝承を生瀬に関わる役人や学者仲間から情報を収集するとともに自らも現地調査を行い、水戸藩の武力鎮圧を『探求考証』の中に書き記しました。その中で事件の起きた発生年代について、慶長14年(1609)、元和3年(1617)、同7年(1621)の説が考えられるとし、明確な年代決定はできませんでした。
また、探求考証が出されてから、40数年を経た安政2年(1859)に地元の伝承としてまとめて著した加藤寛斎の『常陸国北郡里程間数之記』の「生瀬乱の由来」では、事件発生を慶長7年(1602)としています。

慶長14年説「百姓一揆」

『探求考証』から
「慶長14己酉年の10月10日、生瀬郷の百姓が、かねて年貢のことについて不満を持ち、徒党を組みし、出張して来る代官手代を殺そうと謀議したのをある村の名主が内報したので、芦沢伊賀が部下を引き連れてきて、これを平定した。この時百姓に多数の死傷者が出たが、難を逃れて出奔した者も多く、年代すら不明であるが、ただ10月10日のことと語り伝えられている。その後、役人の取締りもゆるやかになり、だんだん帰郷して百姓を継続するようになった。」

慶長7年説「錯誤による偶発的事件」

『常陸国北郡里程間数之記』の「生瀬乱の由来」から
「慶長年中小生瀬村に騒乱があり、一村皆殺しとなったが記録も残らず、詳細は不明である。僅かに残る説話によれば、この年代官所より役人と称する者が来たので年貢を完納した。ところが、後から来た正吏と称する者が現れ、年貢を督促したので、既に納入済みの旨申し立てたが、聞き入れられなかったので、これを偽役人と判断し、殺してしまった。すると、慶長7年壬寅10月9日の夕方、水戸から征将が手勢を率いて小生瀬村を襲い、老若男女を問わず打ち捨てにされた。その後、当庄屋大藤雄之介の先祖嘉衛門が、大子村から移住して村の復興に従事した。」

事件の規模

小生瀬村の住民は、どのように成敗されたのかについてみると、高倉の慶長14年説は死傷した者が多くありましたが、出奔して潜居した者も多く、これらは後日帰村して百姓を継続したとしています。
元和3年説では、芦沢伊賀守が部下を引率して出向き追誅したとあり、元和7年説は、隣接の高柴村岡の内の深沢に逃げ込んだ者は、残らず成敗されたとあります。
加藤の慶長7年説では、「一瞬の間に村中一千有余人のもの夕の露もろともに消失けるとなり。」とあり、一村皆殺し説をとり、高倉説とは相違しています。何れも確たる証拠はありません。
当時、小生瀬村は、戸数は100戸~150戸、文化年中149戸。人口は一世帯平均5人として500人~750人(推定)として、一千人有余人が皆殺しにあったということは疑問です。それにしても、伊奈備前守が命令し、芦沢伊賀守が部下を引率しての一村成敗であり、大勢の水戸藩兵(約150人ともいわれる)が逃げまとう農民を斬り殺しながら地獄沢に追い詰めての農民虐殺であったといえます。
大勢の農民が逃げ込んで皆殺しにされたといわれる岡ノ内坪の深沢が、現在も地獄沢という正式な地名が残っています。また、命乞いをした入口付近を嘆願沢、沢の中程で血の付いた刀を洗った場所を刃拭き沢、斬られた者の首を埋めた首塚、胴を埋めた胴塚などの呼称が残っています。

 

  • 区分:その他の文化遺産
  • 種別:史跡
  • 所在地:高柴字地獄沢地内

地図を見る:地獄沢(生瀬乱)

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